職人技があつまる人形づくり
お人形のパーツごとに専門職人の高い技術を結集することで、
艶やかなひな人形が生まれます。
デザイン
全体像をデッサンし、原型をつくる
お人形を制作するときに、最初にすることはデッサンを描くことです。そして衣装の裂地(きじ)や重ねる色を指定したデザインシートを作成。つぎにデッサンに合わせて、粘土で頭とボディの原型をそれぞれつくります。また、先代、先々代と受け継いできた原型を用いた作品も制作しています。
衣装
衣装を彩る老舗織元の裂地
お人形の衣装は、京都・西陣の老舗織元に特別依頼をした金襴絹織物などを使用しています。伝統的な図案や配色、絹糸の光沢と風合いなどオリジナリティを追求している織元です。織り糸や染め色、紋様などは織元と打ち合わせを重ねて制作。最上質な糸を使用した多彩な紋様の裂地は、ひな人形をより煌びやかに彩ってくれます。
頭(かしら)
原型をもとに頭師が生地づくり
美しい白い肌に仕上げる頭、手、足などは頭師がつくります。粘土でつくった原型をもとにシリコンで型を作成し、石膏を流し込みます。シリコン型でつくった石膏の頭は、お顔の小鼻や唇、耳などの細かい造形をこの段階でしっかり表現することができます。
白い肌に仕上げる胡粉がけ技法
お人形の白い肌を表現するために、平安の昔から今も変わらず胡粉(ごふん)は欠かせません。初代・米洲から受け継いだお人形の白い肌は、貝殻を砕いてつくる胡粉にお湯で溶かした“にかわ”を混ぜたものを、頭全体にきめ細かく吹き付けて仕上げます。そのため輝くような透明感のある白い肌が完成します。
面相
繊細な線で描く表情
面相筆と呼ばれる極細の筆を使って、面相師が眉、目、口、髪の生え際を描きます。なかでも目元を描く「笹目(ささめ)技法」と、髪の生え際を長短の線で描く「描き下げ」は、五色のお人形の最大の特徴です。この技法は高い技術が必要とされ、一人前になるまでには十数年かかります。
清らかな眼差しを演出する笹目技法
3~5種類の濃淡の墨を使い、面相筆で何本もの細い線を重ねて目全体と瞳を描いていくのが笹目技法です。片目だけで50本以上の線を入れます。両目、両眉とも同じ雰囲気に仕上がるように、筆を入れるときも抜くときも同じタッチで描きます。どの角度から見ても目が合っているような、それでいて少し先を見据えたような清らかな眼差しのやさしい表情をつくり出しています。
髪付け
流れをいかして美しく結い上げる
お人形の髪は、スガと呼ばれる黒く染色した絹糸を使用。髪付師がスガ糸の端に糊を付け、頭に彫られた溝に丹念に埋め込んでいきます。後頭部には扇状に広げたスガ糸に糊を付け、小分けにして隙間なく貼り付けます。髪の自然な流れをいかしてスガ糸をたっぷり使い、美しい品のあるお垂髪(すべらかし)や清潔感のある髷(まげ)に結い上げます。
上質なスガ糸の量にこだわる
漆黒に染色した上質のスガ糸を、一般の髪付けで使われる量の2倍以上を使います。髪付け用の溝の長さは短くしてしまうと年月を経ると髪がくずれる場合もあります。そのためもみ上げ部分から髪の生え際すべてに溝を彫り、頭頂部と後頭部にもスガ糸を埋め込みます。たっぷりのスガ糸で結い上げることで美しく仕上がります。
ボディ
それぞれの職人技が生み出す造形
木目込み人形のボディは、職人によるさまざまな工程を経て生み出されます。桐の木の粉と糊を混ぜ桐塑をつくる「練り」、その桐塑を型に詰める「かま詰め」、型から取り出した生地を高温で乾燥させる「焼き」、その後バリ取りやヤスリがけなど補正をていねいに行い、さらに着せるお衣装によってはボディにも胡粉を塗り込み、お衣装が美しく映えるようにつくられています。
筋彫師の巧みな技が光る
乾燥させたボディや胡粉塗りのボディに衣装を木目込む溝を彫ります。筋の入れ方次第で仕上がりに違いがでるため、三世・原裕子が筋彫りの線を最終的に調整します。衣装の織りや柄の向き、ボディの形を考慮して裂地にしわや浮きが出ないように線を書き入れます。筋彫師は溝の太さや深さに合わせて均一に彫り込んでいきます。
木目込み
複雑な溝に沿わせる技術
木目込み師が、ボディに綿の布をあてて筋彫りした各部位に合わせて型紙をつくり、着せる衣装の裂地を型紙どおりに裁断します。筋彫りした溝部分のみに糊をていねいに付けて、一つひとつの部位の裂地を木目込みへらや目打ちで、ゆがみなくしっかりと入れ込んでいきます。
取り付け
すべてのパーツをとりつけ、
お人形を完成させる
木目込みが終わって衣装を着けたボディに、できあがった頭や手と足を慎重に取り付けます。髪や衣装などの全体を整えて、付属品と髪飾りを付けたら完成。数々の工程と時間を経て制作した作品は、どの角度どの細部から見ても洗練された美しさを誇るひな人形です。