第1章:頭部 ― 五色の人形を特徴づける表情の秘密
雛人形の頭部
雛人形において「頭(かしら)」は、最も重要な要素です。その出来栄えは人形全体の印象を決定づけます。五色では代々受け継がれてきた技術を駆使し、一体一体の頭部を丁寧に仕上げています。
笹目(ささめ)技法
五色最大の特徴が「笹目」と呼ばれる目の描き方です。一般的な木目込み人形ではガラス製の義眼(入れ目)をはめ込むことが多いのに対し、五色ではすべて手描きにこだわります。1本の目の中に50本以上の極細線を墨の濃淡で描き重ね、光を宿したかのような奥行きのある眼差しを実現。どの角度から眺めても目が合うように見える、不思議な存在感を放ちます。
描き下げ
髪の生え際に筆で繊細な線を描き重ねる技法で、自然な毛並みや奥行きを表現。上品で気品のある顔立ちを完成させます。
胡粉(ごふん)仕上げ
肌の仕上げには、貝殻を焼いて粉にした胡粉と膠を混ぜた伝統的な白色顔料を用います。頭部に胡粉を何層にも塗り重ね、乾燥と研磨を繰り返すことで、なめらかで透明感のある白い肌が生まれます。胡粉は時間が経っても黄ばみにくく、むしろ深みを増していくため、長く飾り続けても美しさが保たれます。
これらの技法によって、五色の雛人形は「初々しく優しい微笑み」「穏やかでやさしい眼差し」を湛えた唯一無二の表情を生み出します。
五月人形の頭部
五月人形においても、五色は「笹目」「描き下げ」「胡粉仕上げ」の技法を同様に用いています。しかし表情の方向性には、雛人形との違いが見られます。
初々しさと勇ましさの両立
大将飾りや武者人形では、幼さを残しながらも凛とした気迫を漂わせます。雛人形の可憐さとは異なり、未来への希望や力強さを感じさせる表情が際立ちます。
笹目による眼差し
義眼を使わず、すべて手描きで仕上げることで、愛らしさと頼もしさを兼ね備えた眼差しに。見る人の心に「守ってやりたい」という情を呼び起こします。
胡粉と髪付けの調和
胡粉で仕上げた白く澄んだ肌と、丁寧に植え込まれた絹糸の髪が調和し、柔らかさの中に凛々しさを表現します。
雛人形は「やさしさ・愛らしさ」、五月人形は「初々しさと勇ましさ」。
これらを生み出しているのは、五色独自の笹目技法と胡粉仕上げを中心とした頭部の技術です。お人形はこのお顔こそが命であり、五色の木目込み人形の最大の魅力です。
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